WORDS BY TOMOKO NISHITA
物心ついた時から、アメリカに憧れていました。アメリカのテレビドラマや映画を観てはその未知なる国に思いを募らせていたのですが、その中で私の好奇心を一番かき立てたのが、アメリカの食べ物。寂れた田舎町のダイナーで出されるペラッとしたパンケーキとお替わり自由の味気ないコーヒー。家族の帰郷のドラマとともに食卓に並ぶ感謝祭のごちそう。主人公の女の子が失恋してパジャマで馬鹿食いする大きなアイスクリーム。映画やドラマのストーリーそっちのけでこれらの食べ物がどんな味がして、どんな香りがするのか、ワクワクしながら眺めていました。ここで書かせてもらうのは、そんな私のアメリカンフードへのちょっとした思いです。
アメリカンフードは好きですが、特に料理をするわけではありません。そんな私が唯一作れるのが「グリルドチーズ」正式には「グリルドチーズサンドウィッチ」という、いわばホットサンドウィッチです。アメリカでは男性がバーベキューグリルで作ったり、お母さんが時間のないときにつくるランチなどによく登場する、手軽なスナックみたいなイメージでしょうか。ホットサンドというと、日本ではきれいなきつね色の焦げ目がついたものが出てきますが、グリルドチーズは「え、これ焦げてるよね?」ってくらいしっかり焦げ目がついたワイルドなルックス。映画を観ているとしょっちゅうこれが出てくるので、ついにたまらず自分で作るようになりました。といっても食パンにチーズを挟んで、バターをたっぷり溶かしたフライパンでこんがり焼くだけという超手抜き料理のため、「得意料理はグリルドチーズね」なんてスマした顔で言えません。でもこれが本当に美味しいんです。バターの甘い香りとチーズのまろやかなコク。カリッカリッになったパンにがぶりとかぶりつく時の幸せといったら、高カロリーの罪の意識もふっとぶくらい。
グリルドチーズはアメリカ人の日常食、サンドウィッチメニューのひとつ。日本でいうところのおにぎりみたいなものでしょうか。そんなアメリカ人の食生活に欠かせないサンドウィッチにまつわる面白いニュースを見つけました。
こんな美味しそうなサンドウィッチばかりがズラリと並ぶこのブログ“THREE HUNDRES SANDWICHES” は直訳すると「300個のサンドウィッチ」となります。このブログではNYブルックリン在住の女性ライターが、ある目的のために300個のサンドウィッチを作ってそのレシピを投稿しています。
その目的とはズバリ“結婚”。彼女には一緒に暮らす付き合って約2年の彼がいるのですが、その彼が大のサンドウィッチ好き。ある日いつものようにサンドウィッチを作ってあげたら、それを一気に平らげた彼がこう言ったそうです。「婚約指輪まであと300サンドウィッチ!」。その言葉をきっかけに彼女は300個のサンドウィッチを作り続けることになったというわけ。ちなみにお2人はこんな人たち。
当初このブログがニュースになった時は「なんてキュートなお話!」なんて微笑ましい感じで取り上げられていましたが、ニュースが大きくなるにつれ、彼らは「結婚したいがためにサンドウィッチを作り続ける悲しい女」「結婚をちらつかせて、彼女にサンドウィッチを作らせるダメ男」になり、時代の流れに逆行していると批判の声も飛び出すようになりました。しかし当の本人たちはいたって冷静で、「300個のサンドウィッチを作ったら結婚」というのは単なる恋人同士の内輪ジョークで、ブログのきっかけになっただけ。たかだかサンドウィッチがこんなに大きなジェンダー議論に発展するなんてびっくりだわ〜なんてコメントを投稿していました。もしこのブログが男性が彼女ために作るものなら、ロマンティックなイイ話として終わったはず。男性は優しい理想的な彼氏、女性は男性に尽くされるいい女として称賛されたでしょう。そんな矛盾に疑問を感じるこの300サンドウィッチ騒動。今はすっかり人気レシピサイトとして落ち着いているようで、現在(10月14日時点)187個目が作られたところ。
このブログを見ていると、サンドウィッチのバリエーションの豊富さにびっくりします。ちなみにベーグルやハンバーガーもサンドウィッチです。お肉やチーズ、野菜など、とにかく挟めばなんでもサンドウィッチになるわけで、そのレシピは無限大。クッキーにアイスクリームを挟んだデザートなんかも登場します。レシピとともに、このブログの主役といえる彼とのエピソードも盛り込まれ、好きな人のためにおいしいものを作るというシンプルな喜びに気づかされます。そのうち日本でも「彼と私のおにぎり物語」みたいなブログが出てくるかもとひそかに期待してみたり。とりあえず私はマンネリすぎるグリルドサンドウィッチをバージョンアップさせるため、このブログでレシピ研究中です。
THREE HUNDRED SANDWICHES
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